雰囲気中の固体表面に存在する化学種の挙動が光照射下で測定できれば、その表面において進行する光化学過程の研究に重要な情報が得られる。この研究では偏光変調赤外分光法のこの目的への応用を試みた。その理由は、この方法は雰囲気の赤外吸収を消去すると同時に、表面化学種の振動スペクトルの高感度での測定を可能にするからである。 本年度は光CVD法により成長するa-Si薄膜中のSiHn種の挙動をその場測定した。a-Si薄膜(膜厚<50【A!゜】)はジシラン-窒素混合ガスに水銀灯からの紫外光を照射して金蒸着膜表面上に成長させた。 基板温度を室温とし、全圧を113Paとすると、-Si【H_3】種の振動による赤外吸収が測定された。基板温度を473Kに上昇させると、-Si【H_3】種のほかに>Si【H_2】または(Si【H_2】)n種に帰属できる赤外吸収があらわれる。しかし、室温で生成した薄膜を473Kに加熱しても>Si【H_2】種の赤外吸収は出現しない。この事は薄膜中に存在する-Si【H_3】種は安定である事を意味する。したがって、SiHn種の構造は気相から飛来した活性種が固相表面に到達した時の条件によって決定されると結論した。 同一照射時間におけるSiHn種の赤外吸収強度は全圧667Paで最大になる。これに対し、膜厚は全圧の増加とともに減少する。また、膜厚は時間に比例して増加するのに、SiHn種の赤外吸収強度は時間に比例せず飽和の傾向を示す。このことは、薄膜中のSiHn種の濃度が成膜条件とか、膜の成長に伴なって変化する事を意味する。なお、a-Siについてこれまでの研究で見出されたSiO種の吸収は存在せず、酸素の導入によってはじめて出現した。すなわち、これまでに測定されたSiOはa-Siを空気中に取出した際に生じたものであることが明らかになった。
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