本研究は、高選択的有機合成を目指して、有機光化学の分野の知見を有機硫黄試剤を用いた精密有機合成に導入、低温かつ中性条件下で遂行できる光化学を活用した硫黄官能基変換法等を開拓し、新しい光化学に基づいた精密有機合成の分野を構築するものである。本年度は、ジチオアセタールS-オキシド硫黄官能基に焦点をあてて研究を遂行した結果、次のような成果を得ることができた。 1.トリデカナールジチオアセタールS-オキシドの光化学反応 ジチオアセタールS-オキシドの光化学反応の基礎知見を得るべく、トリデカナールジチオアセタールS-オキシドの光照射を行った。硫黄部位にP-トリル基なる紫外線吸収基が存在する場合、254nm光でトリデカナールが生成した。この新しい光化学反応は、酸素により影響を受けること、溶媒効果は殆んどないこと、トレーサ実験、さらには増感実験により、炭素-硫黄結合の等極開裂から開始されることなどが明らかとなった。」2.ジチオアセタールS-オキシドの光分解反応の有機合成への利用 前項に記したように、光化学反応を活用することによって、ジチオアセタールS-オキシドから相当するカルボニル基への変換が中性ないし塩基性下で達成できるようになった。これは、分子内に酸に不安定な官能基を有するアルデヒドの合成に極めて都合が良く、例えば5-テトラヒドロピラニルオキシル基を持つペンタナールが合成できた。さらに、β-受容体遮断薬であるプロプラノロールやピンドロールの合成中間体である3-(2-ナフチルオキシ)-2-アリルオキシプロパナールや3-(N-アリル-4-インドリルオキシ)-2-(アリルオキシ)-1-プロパノールの光学活性体が、本光学反応の開発によって、合成できることが明らかとなった。
|