研究概要 |
可視光による光誘起電子移動過程の分子制御をめざして、本年度は、両親媒性ポルフィリン1を光反応中心とする単分子累積膜系の構成、その定常光電流及び過渡光電流測定と導電機構の考察などを行なった。 アラキジン酸2をN層(N=1,3,5)累積した上に、1と2の混合物を6層累積した系の定常光電流の励起波長依存性は、累積膜系の1の吸収スペクトルとよく対応し、光電流がポルフィリンの励起に基づくことがわかった。定常光電流の値は、アラキジン酸のみの層数Nが増えるにつれて減少したが、作用スペクトルの形は同じであった。ホールと考えられるフォトキャリアーのアラキジン酸層中での減衰がこのような結果から示唆された。 このような単分子膜系の色素レーザー励起による過渡光電流を初めて観測した。過渡光電流は、アラキジン酸のみの系では観測されず、アルミニウム電極に起因するものではないことが確認された。ポルフィリンを含む系の過渡光電流の初期値の励起波長依存性は、1の吸収スペクトル(Q-バンド)とよく対応し、ポルフィリンの励起によることが示された。過渡光電流は、Nによらず観測系の応答時間で立ち上がり、フォトキャリアーの生成は極めて速いことがわかった。その減衰は立ち上がりに比べて極めて遅く、いずれの場合も、初期のわずかの速い成分を除くと単一指数関数的であった。その傾きから求めた寿命は、Nの増加に伴って減少した。この結果も、フォトキャリアーのアラジン酸層中での減衰を示す。 アラキジン酸のみの層数に対してこの寿命及び430nmでの定常光電流値を対数プロットすると、いずれも直線関係が得られその傾きからほぼ同じ減衰特性長(180A及び208A)が得られた。これらの結果から観測された過渡光電流の減衰と定常光電流の挙動が対応していることがわかった。導電機構などについてさらに検討を進める予定である。
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