研究概要 |
1952年、Glavindらによって動脈硬化症の発生における脂質過酸化(LP)の重要性が提唱されて以来、多くの研究者によりその見解は支持されて来たが、LPが動脈壁のどの部分(組織,細胞)に発生しているかなど、硬化病変との直接的な関連については、未だ不明の点が多い。そこで本研究では、動脈硬化病変の中核を成す粥状硬化巣におけるLPの発生部位を、生体内にあってLPの最も有効な消去,防御因子であるglutathione peroxidase(GSH-PO)の局在の変動との関連から追求した。《材料及び方法》殆ど硬化性病変を示さない成人大動脈4例,種々の段階の粥状硬化病変を示す大動脈13例を対象とし、H&E染色標本による通常病理組織検査の他、当研究室で作製した抗ヒトGSH-POを用いた酵素抗体法("ABC"法)でGSH-POの局在観察をも行った。《結果及び考察》正常大動脈壁では、その内膜にも中膜にも殆どGSH-PO局在を認めなかったが、粥状硬化巣では、その主体をなす"泡沫細胞(foam cells)"に顕著なGSH-PO局在を認めた。"泡沫細胞"は、その病変の初期では主としてマクロファージMΦよりなり、後に中膜から内膜へと遊走して来る中膜平滑筋細胞(MSMC)が主体を占めるとされているが、これらの全ての細胞、及び泡沫化以前の、種々の程度の脂肪変性細胞にも顕著なGSH-PO局在を認めた。即ち、正常状態では殆どその局在を示さない細胞に、硬化病変の出現と共にGSH-PO局在発現をみた訳である。ラット肝における【CCl_4】(顕著なLPを起すことで知られている)による脂肪肝の実験などを通し、脂質過酸化物(GSH-POの基質)により、同酵素の合成促進乃至誘導が起ることが知られており、GSH-POの発現をみた"泡沫細胞"では盛んなLPが発生していることが示唆された。また、ラット腹腔MΦにp-bromophenacylbromideを投与(アラキドン酸カスケード抑制とLP産生も阻害)により生じたGSH-PO合成阻害は、脂質過酸化物,アラキドン酸の投与で回復をみた。
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