研究課題
敦煌莫高窟に代表されるように、東アジアには種々の顔料を使った壁画が残されている。それらの顔料の歴史的変遷を知ることは、美術史的にも保存科学的にも重要である。この場合、現場で非破壊的に分析することが望ましい。プロセスとしては、蛍光X線により元素を同定し、X線回折で化合物、特に結晶を同定するということになる。さらに、有機性の色素が使われているときには、赤外吸収を用いる。これら3種類の機器は、通常、実験室内で粉末状の試料を測定するように設計されている。本研究は、可搬式で、壁面をそのまま測定することができる機器を開発し、実際の例に応用して問題点を拾い上げることを目的とした。1.段型プラットリフターの作成:3種類の機器に共通に使用でき、現場で任意の1種類の機器を載せて、壁画近くで上下・前後・左右に微動させる架台である。油圧式で高さ3mまで持上げ可能である。特注により作成した。2.蛍光X線分析装置とX線回折装置の改造:従来の装置を実験室外で使用できるように、電源・冷却水・架台などを改変した。3.赤外吸収分光計の特注:市販の機器は内部試料型なので、クベルク・ムンクの拡散反射法を採用し、壁面のような外部試料を測れるように設計変更させた。4.壁画調査のテスト:横浜市の三渓園天瑞寺寺塔(2回)と五条市栄山寺八角堂(1回)において壁画残部を調査した。三渓園では銅が検出され、緑青と同定された。栄山寺では銅と水銀が検出されたがX線回折装置の故障のため、化合物は同定できなかった。全体を通じて実験室外では、電源(電圧降下)、水(供給源)、足場(水平に保つ)、気象条件によるコンピュータの故障などが問題になり、それらへの対策を予め考えることが重要とわかった。