研究概要 |
1.総論をかねて, 久保は, キリスト教図像の代表的な主題「最後の晩餐」にみられる視覚的伝達の変遷と時代性との関連について, 初期キリスト教時代からルネサンス期まで概括的に論考した. 2.西洋の場合は, 岡田は, 古代ギリシアにおける詩的魅力とその伝達について, ホメーロス, ヘーシオドス, プラトーンの各テキストから, 基礎的概念を抽出して考察し, 近藤は, 中世の「マリア・レジーナ」図像の解釈の時代的変遷について考察し, 近代では横川が, J・ラスキンの建築論を取りあげ, 装飾が建築において果す役割を「個」としての人間と「自然」との関係に引き寄せて論じた. 遠藤は, スペイン17世紀後期のセビーリヤ・カリダー施療院礼拝堂の絵画彫刻が伝達する芸術的意義を, カリダー同志会の歴史, 思想と照合し考察した. 3.中国の場合は, 服部が, 自画題の問題を取りあげ, 画者自らの思想・心情を伝達するのに, 書画併存の形式によらざるをえない理由を考察した. 4.日本の場合は, 小礒は, 朱色を, 本朱, 赤口洗朱, 黄口洗朱に分類し, 側色によって各標準値を設定し, 朱色に関する情報伝達の正確性を提起した. 小町谷は, 絵画表現における地(背景)の問題を, 水墨画と金地彩色画(シエナ派)を対照させて, 視覚的メッセージという観点から比較検討した. 武田は, 南画が間々中国画譜によって描かれることを重要視し, その基礎的研究の方法を, 池大雅の作品研究に即しつつ探った. 5.比較芸術学的解明では, 川上が, 西欧15世紀なかばの世俗木版画が, 大衆の教化や社会風刺などによる観念や理念の情報伝達をめざし, また実用的な情報も提供したこと等を考察した. 6.体系的解明としては, 五十嵐が, 現代芸術の「芸術性」を批判し, 芸術の言語性に基づく表現とコミュニケーションとしての本質や, 芸術の時代性と超時代性の関連を考察した.
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