研究分担者 |
新井 晧士 一橋大学, 経済学部, 教授 (60022117)
河野 みどり 東京大学, 文学部, 助教授 (30195680)
松浦 純 東京大学, 文学部, 助教授 (70107522)
浅井 健二郎 東京大学, 文学部, 助教授 (30092117)
池内 紀 東京大学, 文学部, 助教授 (70083277)
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研究概要 |
本研究は,西欧ユートピア思想史を概観したうえで,様々なユートピア思想のドイツにおける受容の系譜並びにドイツ文学(思想)に現れるユートピア(的)像の系譜をたどり,更に,文学的創造力の根源としてのユートピア的想像力の意味を明らかにしようとする試みである. 昭和62年度においては,中世以来のドイツ文学史中に現れるユートピア像の諸相を検討するとともにユートピア文学の範疇についてもそこに潜んでいるユートピア的像とこれを支えるユートピア的想像力のあり方,構造について具体的作品に則して考察することが研究の主たる課題であった. 今年度,新たに得られた知見の概要を以下に記す. 1.異質なものの諸断片を遍在させるヘテロトピアが,神話を解体し,言葉を枯渇させ,文の抒情を不毛なものとするのに対して,ユートピア的なものは,言葉を統御し諸制度を形成しつつも様々な物語や言説を可能なものとしてきた. 2.中世以来ドイツ文学に現れるユートピア的なものの系譜は次のようにたどることができた. (1)中世においてユートピア的なものは素朴な楽園幻想として思い描かれるとともに,個人・家族・部族間の紛争に千年王国の番人として解決のための実力行使を以って介入する騎士一隠者のあり方(騎士物語)に認められた. (2)近代市民社会形成期には,起源についての夢想をめぐって,博物学・古典経済学などの分類学的思考を形成しつつ探偵小説などの文学ジャンルを生み出すと同時に,また家父長的因襲を支える理念として批判の的ともなった. (3)近代都市社会では,歴史の終焉についての夢想から生まれた因果性の思考(歴史主義)と経験ー限界の悲劇として描かれる〈歴史〉の中で,物語・言説の崩壊という現象に際し, 物語性の回復として希求される世俗的・祝祭的ユートピア像が認められた. 今後更にここに確認されたユートピア的なものの諸相が現代においてどのような可能性を担っているか注目して行きたい.
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