研究課題
昭和61年は次の諸家について研究を行なった。平川はまず高村光太郎の詩における自伝的要素に着目し、その詩と真実の分析を試みた。その成果の一端は平川著『西洋の詩 東洋の詩』(河出書房新社 昭和61年)にも発表したが、主要部分は1987年4月プリンストンで開かれる国際シンポジウムArt in Cultural Context:Continuity and Charge in Modern Japanese Artの席上発表する予定である。志賀直哉については『クローディアスの日記』に着目し、従来中村光夫氏などが主張した家父長的権威による圧迫・被圧迫という父子関係の説明を排して、エディプス・コンプレクス(ハムレット・コンプレクスと呼んでもよい)による説明を試みた。なお日本の作家でハムレットに過敏に反応した大岡昇平らの作家にも自伝的要素の反映を確認した。新井白石の自伝についての研究で新見解は、白石が漢文のみならず和文にも親しんでいたからこそオートバイオグラフィカルな記述をあえてなし得た、とする見方である。以上はいずれも本研究会席上で平川が中心になって行った発表の一部である。川西進はエドマンド・ゴッスの自伝Father and Sonを精読して分析したのみならず、キリスト教信者の父の強烈な影響下に生じた反撥例としてゴス父子に相当する平行例を、日本における矢内原忠雄・伊作父子の場合に認めた。この発表は11月に口頭でなされ、いまだに文章化してはいないが、本研究グループの最良の成果の一つと考えられる。なお本研究会が外部から招聘した講師の講演会中とくに印象的なものとしてカナダUBCのツルタ教授の三島由紀夫『金閣寺』中にみられる父と子の関係の分析、アメリカ・イリノイ大学ムルハン女史の島崎藤村『破戒』に見られる父と子の関係の分析があった。ほかに取り上げた自伝で興無深い本にフィリピンのLeocadio De Asis:Thread of Fateがあった。
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