本研究は分子電子工学の具体的デバイスとして、タンパク質分子膜(LB膜)を使った固体化バイオセンサを開発することを目的とした。研究の最終年度にあたり、まず、LB膜中における酵素分子の状態を解明した。グルコースセンサに用いるグルコース酸化酵素(GOD)について主に検討したが、比活性の大小によりLB膜の状態とグルコースセンサの特性にかなりの差が見られた。すなわち、脂質膜吸着および累積過程において、比活性により最適表面圧に差があり、活性の高いものは単なる吸着、低いものは脂質膜に組み込まれるような状態が高いセンサ感度を示した。また、高活性GODのセンサは使用中に酵素の脱離が顕著であるのに対し、低活性GODのセンサは高く安定した感度を示した。さらに、電気泳動、化学分析などの結果、活性の低いGODには分子量6万〜7万の不純物タンパク質が含まれていること、その高次構造が変性していることがわかった。また、GODに故意にカタラーゼなどの不純物タンパク質を加えてグルコースセンサ特性を調べたところ、微量のカタラーゼはGOD反応に必要な酸素を生み出すためセンサ感度を高めることがわかった。この結果より、高次構造の変性したGODは界面吸着しやすいため脂質膜に安定して取り込まれ、累積時の表面圧印可により高次構造もある程度復活するため、バイオセンサ用LB膜として優れていること、微量の他酵素の添加によりセンサ感度上昇が期待できることなど、センサ製作に有意義な情報が得られた。最後に、タンパク質LB膜をさらに高度に利用するために、フェロセン誘導体の脂質膜にGOD分子を吸着させたミディエータ機能付きグルコースセンサ、およびインシュリン抗体を固定化したLB膜とアルコール脱水素酵素の化学増幅機能を使ったインシュリンセンサを試作し、これに成功した。この結果、タンパク質分子膜を使った固体化バイオセンサの将来性が明かになった。
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