中世窯業遺跡の研究は、文献には殆んど現われない民間必需の非需給物資の生産機構(経営形態.人工組織等)の実態究明が可能視される点で、歴史考古学の当面する基本問題といえる。本研究は、北陸における代表的な瓷器系中世窯である越前窯跡群の群構成の把握と、それをふまええた窯跡及び工房跡等生産関係遺構の発掘調査を通して、地域における生産技術の特質ならびに地域間相互交渉のあり方を明らかにするとともに、15〜16世紀代の近世窯業生産への移行にみられる技術革新と生産機構の変革の問題にも接近しようとするものである。昭和61年度の調査は、福井県丹生郡織田町平等通称岳の谷地区を対象とした発掘調査を実施した。その結果、従来、考古学的方法で認知されていなかった、中世末〜近世初頭に亘る窯業生産の基礎単位を構成する複数の窯跡、灰原、作業場及び運搬路が一体的に把握できる見通しを得たことは予期以上の成果であった。窯跡は斜距離で30m以上、幅5m余を計測し、焚口に分焔柱と焚道を具備し、旧来の越前窯の規模・構造を改良した大規模な地下式窖窯であることが判明した。また、前方には不良製品・焼台等の廃棄物によって、1000【m^2】以上の台地が造成され4〜6mに及ぶ堆積層の各面は作業場として整地されており、古代・中世前期と異なる組織・管理的な生産体制の実態が明らかになった。今後、各層出土陶器の分析がすすめば、稼動期間における編年的細別が可能視される。なお、焚口・煙道で検出された3〜5枚の床面で熱残留磁気測定を実施し、考古年代と理科学年代の整合的検討を試みた。
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