研究概要 |
62年度の調査は, 前年度につづき福井県織田町平等地区の岳,谷窯跡群の発掘調査と地形測量を中心に実施した. これらの調査により, (1)操業の単位空間となるエニットは, 谷を利用して斜面に5基の窯, その前面に谷を埋めて造成とれた作業広場, さらにその周辺の斜面に形成された不良品や窯道具の捨て場の3要素により構成される. (2)窯は, 1号を例にみると全長26m以上, 最大幅5.5m, 燃焼室長2.2m,床斜度約38度をもつ窖窯である. 燃焼室と焼成室の最大幅までの壁は耐火度の高い岩倉石を用いて内張りされる. 分焔柱も同じ切石で積まれている. 2,3号も同じ構造である. (3)各窯はオープンカットで掘られ, 斜面を有効に利用するために平面的に近接して配置される. また垂直的にも重ねられる. このために当初より大変深いレベルまで掘込み, 床のかさ上げに備えられている. 1号は5面, 2号は8面, 3号は3面以上の床が確認され, 各々3m,5m,2mも上げられたことがわかる. 時間的には3号→1号→2号の順で使われ, 3号及び1号の床3以下が戦国期に属し, その後, 17世紀中項までこのユニットは操業していたことが示される. (4)地形測量は, 発掘地域の100分1,周辺を含む500分1地形図を作成した. これにより, この地域の山中に操業ユニットと思われる地形が点在することが確認できた. この結果, この時期の越前焼の生産は, それまでの中世的なものではなく, ユニットの構造性, 窯の規模等に示されるように, 長期の計画性を維持しうる組織の存在が予測され, 特有の大規模は窯体の開発により, 技術的にも最も生産力が展開拡大した時期といえる. 遺物の分析によりさらに細かい生産の実態が明らかにされると思われる.
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