研究概要 |
本研究の主要な実験である時間分解ESRにおいて, パルス光源として使用するエキシマーレーザーを前年度に購入した. 今年度当初に波長308nm(XeCl)および249nm(KrF)における発振調整を完了した. また, トランジェントメモリーと今年度に購入したマイクロコンピューターを組み合わせて, 時間分解ESR信号の平均加算処理システムを完成し, スペクトルのS/N比の向上が可能になった. (E)ー1,2ービス(4ーピリジル)エチレンの励起三重項状態は無りん光性かつ短寿命であるため, 時間分解ESR法が唯一の研究手段である. 本研究では, エキシマーレーザーを光源に用いた時間分解ESRの実験を行い, △Ms=±1遷移の信号を観測することに成功した. また, 延伸高分子膜法を用いてこれらの信号の帰属を行った. その結果, 最低励起一重項状態から最低励起三重項状態への項間交差(ISC)は分子面内の二軸方向の副準位にほぼ1:1で起こり, 分子面外方向の副準位には最も起こりにくいことがわかった. 従って, 最低励起三重項状態において, 平面に近い構造をとるという結論が得られている. 2.2′ービピリジンのISCに対するプロトン付加および反磁性金属イオンとの金属錯体形成の影響を, 時間分解ESRの実験を行って研究した. その結果, 2,2′ービピリジンのISCは主として短軸方向の副準位に起こるが, プロトンが付加すると分子面内での異方性が小さくなり, Zn(II)錯体では長軸方向の副準位に起こることがわかった. また, キノリンについてもISCの副準位選択性に対するプロトン付加の影響を調べ, プロトン付加に伴いISCの副準位選択性が長軸方向副準位から短軸方向準位へと大きく変化することがわかった.
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