研究概要 |
研究実施計画の各項目について次の実績を得た。 1.一次元型有機強磁性体のモデル分子:基底七重項分子3,3′-DPBPMのトポロジー異性体(3,4′置換体)について、トポロジー的対称性とスピン整列の関係をESRで調ベた。その結果前者と対照的に、この異性体は非常に低い励起五重項状態を持った基底三重項分子であることが分った。トポロジーによるこのスピン整列とエネルギー準位の大きな違いは、我々が確立したハイゼンベルグモデル計算によって良く説明されることが分った。さらにENDORでスピン分布を測定し、理論値と比較したところ、ハイゼンベルグモデルNでは、正、負スピン共に過大となり、分布に関してはむしろハバードの方が優れていることが分った。 2.一次元型高スピンユニット間の架橋構造とスピン整列機構:架橋による高次元化の有用な官能基であるメチレン基とエーテル基について、合計6種類のトポロジー異性体の測定をほぼ終った。エーテル基については、4,4′置換は強磁性的に働らき、その原因はトポロジーと酸素原子を介する超交換機構であることが分った。残る3,3′置換は強磁性にも反強磁性にもなり複雑であるが、これは架橋位置3,3′のスピン密度が小さいために超交換が有効に働かないためである。またメチレン基の場合は、超共役が架橋の交換相互作用の原因であるが、他の機構との競合のために結果はやや複雑になった。 3.フェリ磁性分子:上記の二つの官能基を用い、基底状態が三重項と五重項の高スピンユニット間に架橋して得られるフェリ磁性分子について総合的な研究を行った。その結果、トポロジーを考慮した分子設計を行えば、架橋によるスピン整列の制禦が可能であることが分った。また架橋位置のスピン密度が小さい3,3′の系については、量子混合を考慮することが必要となり、理論的な取扱いについて詳細に検討した。
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