前年度に引き続き、1、1、2、2ーテトラクロロジイソプロピルジシランと1、2ージクロロテトライソプロピルジシランとのリチウムによる共縮合を行ない、パーイソプロピルビシクロロ[2.2.0]ヘキサシラン(1)、パーイソプロピルトリシクロ[4.2.0.0^<2、5>]オクタシラン(2)およびパーイソプロピルテトラシクロ[4.4.0^<2、5>.0^<7.10>]デカシラン(3)を合成した。紫外吸収スペクトルにおいて、最底遷移エネルギー吸収極大は環数が増大するにしたがい長波長側に移動する[310nm(1)、355nm(2)、385nm(3)]ことが観測された。一方、最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位と相関する酸化電位[0.92V(1)、0.87V(2)、0.81V(3)(ジクロロメタン中、甘こう電極基準)]には大きな差が認められなかった。したがって、紫外吸収スペクトルにおける長波長シフトはHOMO準位の上昇よりも最底空軌道(LUMO)の低下に起因することがわかった。換言するならば、梯子型ポリシランにおける多環化はLUMOの電子受容性を増大 ることが示唆され、機能性ポリシランの分子設計を行なう上で有用な知見が得られた。また、トリシクロオクタシラン2の光分解においては、2分子のテトラシラシクロブテンを与える開裂反応が選択的に起ることもわかった。すなわち、梯子型ポリシランはケイ素ーケイ素二重結合を含む新規環状ポリシランの前駆体になり得ることが示された。1、1、2、2ーテトラクロロジイソプロピルジシランのリチウムによる単独縮合では、梯子型ポリシランポリマー、ポリ(ジイソプロピルジシリン)(4)(重量平均分子量7600)が定量的に生成した。4は紫外・可視領域に強い吸収を有する赤橙色固体であった。熱重量分析において、800℃における重量減少は約35%であり、これは既存のポリシランポリマーの値(約70%)よりも低かった。
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