研究概要 |
1.P、N、S、Oの配位原子をもつ多数のCo(III)系列錯体の酸化、還元電位を測定した。両電位ともに錯体の電荷に依存するが、還元電位は配位子の種類にも大きく依存する。酸化および還元電位は、それぞれほぼ錯体のHOMO、LUMOのエネルギーを与えるから、その差ΔE=[酸化電位ー還元電位]はCo(III)錯体の配位子場吸収帯(υdーd)のエネルギーに相当する。実際、ΔEとυdーdの間には極めてよい直線関係が得られた。この関係を利用すると、例えばキレート員環数による吸収帯の移動が錯体のHOMO、LUMOの何れに関係しているかが明瞭になり、電子状態の理解に有用であることを示した。 2.シスージクロロおよびクロロアクアビスージホスフインCo(III)錯体のトランス体への光異性化の量子収率を決定した。この異性化は非可逆でトランス体からシス体へは異性化しない。波長依存性、溶媒依存性なども検討し、AOMモデルにもとづいて反応機構を考察した。 3.[Co(OーO)_2(NーE)]×(E=P,As)型錯体のX線構造解析を行ない、5B族配位原子のOに対するトランス影響を検討したところ、P>As>Nの順になった。この順は分光化学系列の順と一致する。 4.不斉炭素を含む2,3,2PーNーNーP型四座配位子を合成し、そのCo(III)錯体を多数合成した。窒素不斉、および配座異性による異性体、不斉炭素にもとづくジアステレオ異性体なども単離し、構造を帰属するとともに吸収スペクトル、旋光性について考察した。 5.(R,R)ーシクロヘキサンジアミンとサリチルアルデヒドから得たシツフ塩基を配位子とするTi(IV)錯体を合成し、その構造が酸素で架橋した二核錯体であることをX線構造解析により決定した。この不斉錯体はプロキラルなスルフイドのスルホキシドへの不斉酸化の触媒となり、不斉収率は約50%e.eであった。この反応の機構を研究した。
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