研究概要 |
本研究では、ソフトな配位子として各種ホスフィン,アルシン,およびそれらのアミノアルキル誘導体を、ハ-ドな金属としてCo(III),および同族のRh(III),Ir(III)をもちいて多数の錯体を合成し、それらの構造、物理的化学的性質を研究した。単離した錯体は何れも空気中で安定であるが、Co(III)錯体には、リンのトランス位の配位子がリンのトランス効果により置換活性となるものが多い。アンモニアやキレ-トしたアミノ基も酸により解離し、従来のアンミン錯体では見られない性質を示す。X線構造解析でもリンのトランス位配位子と金属との結合距離がかなり長くなっていることが認められ、M-P距離とトランス側のM-N(M=Co,Rh)には相関が見られた。電子スペクトルの解析から、5B族配位原子の配位子場強度はP>As>Nの順となり、この順はまたX線解析により得られたトランス影響の順と一致する。また、Co(III)錯体の配位子場パラメタ-eπ(P)は正となり、ホスフインの配位により金属のdπ軌道は不安定化することを示唆した。これらの結果は錯体の酸化、還元電位にも反映されている。酸化電位は近似的に錯体のHOMOのエネルギ-を与えるが、ホスフイン錯体の酸化電位は一般に対応するアミン錯体に比べ負側にあり、HOMO,すなわちdπ軌道がアミン錯体に比べ不安定化していることを示している。なお、還元電位は近似的にLUMOのエネルギ-を与えるので、両電位の差△E=[酸化電位-還元電位]はCo(III)錯体の配位子場吸収帯のエネルギ-ν(d-d)に対応する。約50種の錯体について測定した結果、△Eとν(d-d)の間には極めてよい直線関係が得られた。この関係を利用すると、配位子場吸収帯の移動がHOMO,LUMO,すなわちdπ,dσの何れに関係しているかが明瞭になり、配位結合の理解に有用であることを示した。なお、ホスフイン錯体の光化学についても研究した。
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