1.重水素核測定装置について.液体試料を対象としてトランスミッターチューニングとレシーバーチューニングを最適条件に、90度パルス幅を18マイクロ秒に短縮することができたばかりでなく、検出感度も良好であることが分かった。また、満足すべき分解能が得られ、最適測定条件下で重水化したタンパク質について測定を行ったところ、過去の予備的な測定では分離し得なかった信号を分離することができた。 2.放線菌Streptomyees albogriseolus S-3253を大阪府立大学から譲り受け、これを重水素トリプトファン(tryptophan-d5)を含む混合アミノ酸培地で培養して、重水素置換されたトリプトファン-86を持つタンパク質SSIを生産した。クロマトグラフィー等による精製を経てた後、プロトン-NMRにより確認したところ、80%以上の重水化率を示した。3.以上のようにして精製した重水素化トリプトファンを持つSSIを軽水中に溶かし、その重水素NMRを測定したところ、そのスペクトルは幅広い信号とシャープな信号成分とからなることが分かった。このことは、SSI分子が二つの異なる立体構造の間で平衡にあり、その中の一つの構造では、トリプトファン-86を含む領域が"緩んだ"構造をとり、そのためトリプトファン-86の側鎖が、相関時間【10^(-9)】秒程度の速い内部運動を行っており、もう一つの構造ではトリプトファン-86が分子に堅く固定されていると考えられる。このように、重水素NMRはタンパク質の内部運動の定量的解析に有効な方法であることが分かったので、現在様々な方法で重水素化タンパク質の生産を行いつつある。
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