研究概要 |
遺伝子工学と生合成を活用して, 放線菌の生産するタンパク室Streptomyces Subtilisin Inhibitor(SSI)のサブユニットあたり3個のメチオニンの中, その全部, もしくは1つのメチル基プロトンを重水素で置換した. これらについて重水素NMRを溶液中及び固体中で測定することにより, SSIの内部運動に関して詳細な知見を得ることができた. 特に固体状態での測定からは, 以下の点が明らかとなった. 酵素との結合に重要な役割を果すメチオニン70と73の側鎖は, 乾燥状態では完全に静止しているが, 固体中での水和量が増大するに伴って, 非常に大きな振幅の1MHz程度の速さの運動を行うことが, スペクトル線形のシュミレーションにより明らかとなった. 酵素の活性中心ポケットの中で疎害剤の側鎖が, 限られたとはいえかなりの運動性をもつ事実は, この酵素Subtilisin BPN'がいろいろなアミノ酸配列をもったタンパク質を基質とすることができる-その作用スペクトルの広さ-と密接に関係していると考えられる. また今回の結果は, 固体中でもタンパク質には非常に大きな内部運動が存在すること, しかもそれが水和によってもたらされるものであることをはっきりと示した. また, SSIのサブユニットあたり, ただひとつのトリプトファンの環プロトンを重水素置換し, このものの溶液中での重水素NMRスペクトルを測定することにより, トリプトファンの一部が速い内部運動を行っていることを明らかにした. この結果は, 先のメチオニンの溶液中での重水素NMRの結果とともに, タンパク質の溶液中での内部運動を研究に対しても重水素NMRが有効であることを初めて示したものである.
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