昨年までの研究により、外洋域では単細胞藍藻類を主とするピコ植物プランクトンの圧倒的な優占が明らかなので、それらに着目して海洋水中での細胞の分裂速度を分裂細胞の出現頻度より48時間にわたり継続的に推定し、分裂は昼夜にわたって常時認められるが、特に日没前後の数時間に集中することを見い出した。こうして得られた個体群の現場でのポテンシャル増殖速度は平均して1日1回分裂程度となり、別に濾別試料の培養で推定された結果とよく一致した。これは実験室の好適環境下での単離株の増殖速度と一致し、外洋の貧栄養環境下でも高い増殖活性の維持されていることが確実となった。 一方、現場水中の単細胞藍藻類の細胞密度は、日没から夜間・明け方にかけて増大し、明け方から日没にかけて明らかな減少を示した。個体群減少は原生動物による捕食圧によるものが大部分であることが実験で明らかになった。したがって24時間を通じて、単細胞藍藻類の増殖により生物量は倍加するが、増加分とほぼ同量を捕食により消失し、平衝状態を保持していることが明らかになった。これは捕食圧によって単細胞藍藻類の生物量が限定されていることを示していると考えられる。 また、単細胞藍藻類の単離培養株を用いて、実験室で増殖速度に対する環境制御作用の基本的知見も得た。光強度の変化に対する増殖速度依存性では、約25μE・m^<-2>・s^<-1>で光飽和に達し、約5μE・m^<-2>・s^<-1>で光補償点になる明らかな陰性型が認められた。注目すべき点は、光依存性の強い弱光条件下では細胞中のクロロフィルa、フィコビリン、窒素、炭素の含有量が、いづれも光強度の減少に伴ない光補償点付近まで急増していくことで、最大では光飽和環境下での2〜3倍になった。
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