本研究は、無担体電気泳動法等によって哺乳類のX精子とY精子をできるだけ純粋に分離し、両者の差異を生化学的・細胞生物学的・免疫学的に明らかにすると共に、半数体での遺伝子発現の有無を検討することを目的として開始された。また当初その結果を畜産・水産分野での雌雄の産み分けにも役立てる計画をたてた。 上記の目的を達成するため、Hirschmann社製ACE710型の無担体電気泳動装置を購入し、キナクリン染色でX精子、Y精子の判定が可能とされるヒト精子を主な材料として、両者の分離を試みた。まず精漿、奇型精子、未成熟精子を除くために、Percoll連続密度勾配とswim down法を組み合わせた精子の調製法を開発した。また泳動液等にも工夫を加えた。その結果、比較的効率よく二峰性の精子の分離を行えるようになった。キナクリン染色法による結果は、両ピ-ク共陽極側に移動するがより移動度の高い方にX精子が、移動度の低い方にY精子が含まれていることを示した。さらにそれぞれのピ-クに含まれる精子よりDNAを抽出し、アメロゲニン遺伝子のPCR法による増巾により、X染色体とY染色体の含量を検討したところ、Y精子を含むと思われるピ-クのものは殆どYのみであったが、X精子を含むと思われるピ-クには両者が混在していた。分離後の精子をもう一度無担体電気泳動にかければ、X精子の分画についてもよい結果が得られるものと期待される。また無担体電気泳動で分離された精子について、ゼ-タ電位を測定したところX精子がおよそ-17mV、Y精子がおよそ-12mVという結果を得た。さらに精子表面物質に対するモノクロナル抗体の一つは、Y精子と反応してそのゼ-タ電位をより負の価にする結果を得た。なおヒト以外の哺乳類では、マウスで二峰性の分離がみられた。上記以外にも、今後の研究に役立てるため、精子の成熟等に関する基礎的デ-タの集積に努めた。
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