研究概要 |
1.個別機能の定量化試験…富士山麓国有林(静岡県下)内のミズナラを主とする落葉広葉樹天然林とこれを樹種更改したヒノキを主とする針葉樹人工壮齢林及び同新植地に、各0.1haの試験区を設定し林分の水循環に関する諸要因を観測した。この結果、地上到達雨量は広葉樹天然林と針葉樹壮齢林との間に顕著な差異は認められなかった。地表部蒸発量は樹冠の閉鎖していない新植地は最大であったが、広葉樹林は著しく少なく針葉樹壮齢林の約40%であった。深さ別に測定した土壌水分は、広葉樹林が針葉樹林よりも湿潤な傾向を示し、また、新植地の表層土で変化が大きかった。スーパーポロメーターによる蒸散量測定では、7〜8月が最大で日射量と飽差とよく対応した。2.林種・立地条件別の浸透能及び貯水能の測定…静大中川根演習林,富士宮財産区林(静岡県下)及び九大北海道演習林において、広葉樹天然林とヒノキ,カラマツ等の針葉樹人工林を対象に、冠水式円筒浸透計で浸透能を、採土円筒で採取した不かく乱土壌の粗孔隙量で貯水能を測定した。これらを目的変量としこれに関連する地形,林況,林床植生等を独立変量とする多変量解析を行なった。この結果、堆積区分,斜面方位,林分密度等が有力なパラメーターとなることが明らかにされ、これらによって水文学的観点から森林区分を行う可能性を見出した。来年度は流況解析対象流域で調査測定の予定。3.既往流量データの収集による流況解析…広葉樹天然林から大面積に針葉樹人工林に樹種更改された流域を選定し、河川流量に及ぼす影響を解明する解析を行なった。今年度は岩木川上流沖浦ダム(青森県下)と安倍川上流大河内ダム(静岡県)等を対象とした。この結果、沖浦ダム流域では、ブナ天然林を皆伐してスギ人工林に大規模に樹種更改された後、低水量以上の流出量に若干の増加傾向が認められた。しかし、直接流出量には有意な差異が認められなかった。来年度は他流域も加える。
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