ラット遊離膵腺房標本にfura-2AMを取り込ませ、その標本の単一細胞内のカルシウム濃度〔Ca^<2+>〕iの空間的・時間的変化を測定した。顕微蛍光測光を行う前に、この顕微鏡に組み込まれているノマルスキ-装置によって、その細胞の細胞内粗面小胞体や核などの局在を確認した。この装置によって、酵素原顆粒が集中している腺房細胞腺腔側の顆粒領域とほぼ透明に見える基底側の粗面小胞体領域とを判別することができる。持続的な分泌反応を引き起すことが知られている30pMのCCK-8で標本を持続的に刺激すると、粗面小胞体領域では〔Ca^<2+>〕i振動が記録されたが、一般には顆粒領域からは持続的な刺激開始直後に現れる一過性の〔Ca^<2+>〕i上昇が記録され、振幅の大きい〔Ca^<2+>〕i振動は記録されなかった。〔Ca^<2+>〕i振動は次の3相から構成されていた。1)初期一過性上昇、2)それに続く緩やかな下降相、及び3)下降相に重畳する振動性スパイク群。腺房を無Ca液で周辺潅流しながら30pMのCCK-8で持続的に刺激すると、初期の一過性上昇のみが記録され振動性スパイク群は消失した。100pMのCCK-8で持続的に刺激すると、大きなー過性上昇相のみが記録されてスパイク群は記録されなかった。これらの結果は〔Ca^<2+>〕i振動が膵腺房細胞の刺激ー放出連関において重要な役割を担っていることを示している。CCK-8濃度が30pM以下という生理的濃度の時に〔Ca^<2+>〕i振動が記録されるという結果は、この〔Ca^<2+>〕i振動がCCKの生理的効果、特に接続的分泌反応や膵腺房細胞の栄養効果に関与している可能性を示唆している。
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