研究概要 |
温熱負荷で, ヒトや動物の皮膚血管は拡張し, 体表から環境への熱の移動が促進して至適体温が維持される. このように温熱負荷時の皮膚血管の拡張は, 温熱にさらされた動物の熱放散を増加させる重要な因子である. しかし環境温が体温より高い場合は, 皮膚血管の拡張は逆に外界から体内への熱の流入を促進し, すでに高体温の生体にとり不利な現像となる. ヒトの皮膚では何らかの防御機構が働く可能性が考えられる. 本研究の目的は, 以下の複数の実験を通してその可能性と機序を追跡することである. 1.局所温熱刺激時の皮膚血管収縮機序と意義の解明. 皮膚加温(35ー43℃の水温)時の指血流量, 皮静脈血流速, 前腕皮膚温等の変化を, 静脈閉塞法, レーザードップラー, 超音波ドップラー, サーモグラフィー等で測定した. その結果, 動静脈吻合がこの血管収縮反応に関わる皮膚血管であり, それが存在しない前腕皮膚で温熱血管収縮が認められない理由が解明できた. この反応は或程度環境温が高く, すでに皮膚血流量の高い時にのみ認められ, 高温外界からの熱流入を阻害する合目的な反応であることが確認できた. この血管収洳反応に関わる神経回路(軸索反射か脊髄反射かなど)を同定する目的で, 上肢正中神経支枝の交感神経活動を記録した. 基礎血流量の高い比較的高い環境温度下に限り, 水温39ー41℃の時指血管の収縮と有意な皮膚交感神経活動の亢進を認め, この反応が脊髄レベルの調節を受ける反応であることを推測した. また局所皮膚の温度感覚と血管反応の強さの関係を求め, 温熱感覚の相的増加時にのみ血管収縮が起きることを確認した. 2, 手等四肢末端部血流変動の四肢熱放散量に与える効果. サーモグラフィーと血流量の測定とを組合せ, 手の血流量の増減が前腕皮膚からの熱放散量を著しく修飾することを確認した. 温熱血管収縮の効果がひいては四肢中心部の熱放散に及ぶことを検討しえた.
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