研究概要 |
感覚系神経伝達物質の探索に、従来我々は新生ラットの摘出脊髄標本と摘出脊髄-尾標本を繁用してきた。摘出脊髄-尾標本は尾に機械的刺激あるいは化学的刺激を加えることにより腰髄節前根から容易に侵害反射電位を記録することが出来、優れた標本の一つと思われる。しかしこの標本では末梢に与えられた侵害刺激がいかなるタイプの線維を経由して中枢に達し、侵害反射電位を発生するのか、などの疑問を解明することは解剖学的理由から困難であることが分った。そこで末梢から脊髄に至る線維連絡が実体顕微鏡下で追求出来る以下に述べる二つの標本を開発し、標本の性質と種々の薬物に対する影響を検討した。1)摘出脊髄-伏在神経標本:この標本は脊髄に大腿神経,伏在神経,閉鎖神経がつながっており、C-線維反射に対する薬物の作用を調べるのに適している。伏在神経を刺激すると20〜40秒持続する脱分極性のC-線維反射が腰髄節前根(L3)から記録された。この反射はモルヒネ,エンケファリン,ダイノルフィン,GABA,ムシモール,ソマトスタチン,およびガラニンにより著しく抑制された。またこの反射はP物質拮抗薬[D-【Arg^1】,D-【Trp^(7.9)】,【Leu^(11)】]SP(Spantide)により著しく抑制された。一方閉鎖神経刺激により単シナプス反射,多シナプス反射が記録されたが、これらの反射は上記の薬物により殆ど影響されなかった。2)摘出脊髄-伏在神経-皮膚標本:この標本は伏在神経を介して脊髄と後肢皮膚との線維連絡が解剖学的にも生理学的にも明らかな点で優れた標本と思われる。脊髄と皮膚を別に灌流し、皮膚の灌流液中に少量のcapsaicin(1μM,100〜200μM)を圧パルスで注入するとL3前根から約30秒続く侵害反射電位が記録された。この反射電位はモルフィン,エンケファリンおよびSpantideにより著しく抑制された。一方この反射電位はプロスタグランジンを予め皮膚側に灌流適用することにより著しく増大した。
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