研究概要 |
Substance P(SP)は脊髄後角の一次求心性C線維の終末中に含まれ, 疼痛伝達物質の一つとして働くものと考えられている. これまでわれわれは, 新生ラット摘出脊髄標本を用い感覚系神経伝達物質の研究を行なってきた. SPをこの標本に適用すると, 運動ニューロンの脱分極をひき起こし, 前根から脱分極が記録される. この脱分極はGABA作用薬であるmuscimolにより抑制され, GABA拮抗薬のbicucullineにより増強される. GABAは脊髄後角背側部でSPとほぼ似た部位に濃縮されているので, 疼痛を伝える神経経路でGABAが抑制性伝達物質として関与している可能性が考えられる. すなわち, 一次求心性C線維の脊髄側終末からSPが放出され, このSPがGABAニューロンからGABAを放出させ, このGABAが疼痛の制御に関与する可能性が考えられる. そこでわれわれは新生ラット摘出脊髄標本を用いて, この可能性を検討した. 2ー5日齢のラットから脊髄を摘出し半切したものを1mlの液槽中に4本並べ, 27℃に保ち, 0.7ml/minの流速で灌流し3分毎に灌流液を集めた. サンプル中のGABAはHPLCで分析した. 5μM veratridineを灌流すると, 脊髄からのGABA放出量は著しく増大し, このGABA放出は1μMテトロドトキシン(TTX)前処理により抑制された. 外液のK^+濃度を90mMにするとGABA放出が増大し, これは低Ca^<2+>で抑制された. SPは0.5〜10μMの濃度範囲で脊髄からの GABA放出を用量依存的に増大させたが, このGABA放出は1μM TTXや低Ca^<2+>処理で抑制されなかった. またSP拮抗薬として知られる[DーArg^1,DーTrp^<7.9>Leu^<11>]SP(Spantide)はそれ自身GABA放出を増大させた. このことから脊髄の GABAニューロン上に存在するSP受容体は肥満細胞上にあってSPに反応してヒスタミン放出を起こす受容体と似ていることが示唆される.
|