本研究の目的は老人脳に沈着し、その出現と痴呆とが密接な関係があるところの、アルツハイマ-原線維変化および老人斑の本体と出現機序、さらにそれによる脳の代謝破掟へのプロセスを超微形態、免疫組織化学、生化学的手法および培養神経細胞を用いて解明することにある。 三年間の研究により得られた知見は以下のとうりである。 (1)アルツハイマ-原線維変化を構成するPHFは電顕的に必ずしもtwistしたものだけではなく、straightの15nm線維との混在・移行がみられ、またneurofilamentとの関連もあり、その構造はかなり複雑で、既存の線維蛋白以外の新しい蛋白質の関与の可能性が示唆された。 (2)ベ-タ蛋白の合成ペプチド抗体はAD脳の血管および老人斑のアミロイドに反応したが、PHFには反応しなかった。 (3)アルツハイマ-原線維変化は中枢神経系だけでなく、末梢神経系に属する交感神経節細胞にも存在することをはじめて見出した。 (4)アルツハイマ-脳には神経突起伸長作用を阻害する低分子物質が対照脳よりも少量に存在することを明らかにした。 (5)アルツハイマ-脳、あるいは老年者脳を、抗脳型クレアチンキナ-ゼ(CK-BB)抗体を用いて免疫組織化学的に検索したところ、神経原線維変化をおこす神経細胞群(たとえば、大脳皮質第3層、第5層、海馬錐体細胞、マイネルト核など)が極めて高いCK-BB 免疫原性を有することを明らかにした。この結果は、原線維変化に密接に関係すると考えられている細胞骨格蛋白の異常リン酸化に、CK-BBが何らかの型で関与している可能性のあることを示唆している。
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