研究概要 |
ヘビ神経毒の生理作用を活用して神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)が比較的容易に分離されるようになり,その構造と機能との関係を解明しようとする研究は近年盛んに行われている. 特に最近AChRの各サブユニットの一次構造が遺伝子操作の技術により明らかにされこの領域の研究は益々盛んである. しかしすべて糖蛋白から成るAChRの糖鎖の構造やその機能についての知見は全く得られていなかった. そこで申請者らは神経伝達機構を生化学的に解明する研究の一環として, まず神経伝達物質の受容体の一つであるAChR分子を中心に糖鎖の構造と糖鎖の神経機能に果す役割や最近AChRの近傍に存在しAChRの機能発現に重要な役割を担っていると云われている分子量43,000の蛋白群(43K)の生化学的特性などを明らかにする目的で本研究を行ない以下に示す興味ある知見を得た. (1)コブラ科のヘビ毒より分離した神経毒を活用するアフイニテイクロマトグラフィーでシビレエイ電気器官から高収率高純度でAChRを分離する方法を確立した. (2)得られたAChRの各サブユニットの主要な糖鎖の構造がハイマンノース型であることを世界に先がけて明らかにした. (3)AChRへのAChの結合に糖鎖が関与しているか否かを調べシアル酸がAChRへのヘビ神経毒の結合を阻害したが別途調製したアシアロAChRに, もとのAChRへと同程度にヘビ神経毒が結合することからAChR分子上の糖鎖はAChの結合性の機能的役割ではなくAChRの各サブユニットの生合成部位から後シナプス膜上への輸送, あるいはそれらサブユニットの会合に関与していることが示唆された. (4)43K蛋白群中プロテインキナーゼ(V1), クレアチンキナーゼ(V2)を夫々均一に分離し, V1はAChRやAChRを含む膜画分をリン酸化するプロテインキナーゼであること, V2のアミノ末端配列は他の動物のクレアチンキナーゼと相同生が極めて高いことを明らかにした. 以上AChRについて多くの新しい知見を得た.
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