研究概要 |
mylin deficient(mld)マウスは, 中枢神経系のミエリン形成障害を特徴とし, 常染色体劣性の遺伝様式をとる. 以前我々は, このミエリン形成障害は, ミエリン塩基性蛋白質(Myelin Basic Protein: MBP)遺伝子の転写障害にもとずき, その遺伝子は重複していることを明らかにした. 今回, mldマウスに於けるMBP遺伝子の分子機構を明からにするために, 重複したMBP遺伝子(geneー1,geneー2)のプロモーター領域のクローニングとプロモーター活性の測定を行った. mld肝より抽出した染色体DNAから遺伝子ライブラリーを作製し, geneー1,geneー2のプロモーター領域のクローンを単離し, 構造を決定した. 一方, 我々はHeLa粗抽出液を用いた無細胞系により, MBP遺伝子の転写に成功しており, この系を用いて, geneー1,geneー2のプロモーターを活性を測定したが, 両方ともに正常のものと差が無かった. 同様の結論は, 神経系の株化細胞(NG108)を用いたtransient transfection assayからも得ることができた. MBP遺伝子の効率よい転写のためには, 転写開始部位から251bpまでの配列が重要であるという結論が我々の他の実験から得られているが, この部分の塩基配列は, mldのgeneー1,geneー2ともに, 対照のものと完全に一致した. これらの事実は, mldにおけるMBP nRNA量の低下を, プロモーター領域の欠陥に帰することが出来ないということを示している. 一方, mldのMBP遺伝子は, 以下に述べるような複雑な構造をとる. 染色体in situ hybridizationにより2つの遺伝子は, 第18染色体上で極めて近い位置に存在していることが明らかとなった. 又, geneー2の約10kb上流にexon3が逆方向に存在していた. mldの1つの遺伝子の内部で, exon2と3の間にjunction pointをもち, 述位を伴う再編成が生じていると考えられた. mldのMBP遺伝子の抑制機構として, このような遺伝子再構成にもとずく, transcriptional interference等の可能性が考えられた.
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