研究概要 |
本研究の目的は、幕末明治期における日本漢学の実情を正確に洗い直し、それによって従来文明開化、欧化の波をこうむって必ずしも正当に評価されることのなかったこの期の漢学者たちを正しく評価し歴史に位置づけることにある。そのために、本年はまず最も基礎的な事項、たとえば各思想家の著作の目録,年譜の作成,書翰類の蒐集調査,主に活動した地方への実地調査等を分担者それぞれが課題に従って調査することを主とした。 町田・菰田・薄井は、豊後竹田,大分,日出,杵築へ出張し、各地の高校図書館,市立図書館等を尋ね、また大分市郊外の鶴崎では岡松甕谷の子孫を訪問して、「高田村志」等貴重な資料を入手した。また町田・薄井は、竹鴻井々関係資料蒐集のため、東京、大阪の図書館、博物館を訪ね、福田は東京都立図書館にて井上哲次郎関係資料を検索し、あわせて「道学遺書」関係資料の蒐集につとめている。 町田はさきに「安井息軒 覚書」を東方学72輯に発表し、目下これを補足すべくさらに資料を蒐集するとともに、明治初年、針尾の楠本碩水に深い影響を与えた清国駐長崎領事余 を、彼の現存する碩水宛書翰を通じて考察し近く発表予定である。なお竹添,岡松研究も順調に進行している。荒木は「雑誌陽明学」の思想史的意味を明治の全体像の中で位置づけるべく構想中であり、菰口は、豊後竹田藩の儒者を、従来のように田能村竹田一人に負わせるのではなく、藩全体のレヴェルで考察し、福田は「道学遺書」関係資料のカード化を鋭意試みている。薄井は、東沢潟の師弟関係を書翰類の整理を通じて解明しつつある。以上、各分担者は、それぞれの担当するテーマに即して資料蒐集,研究調査を続けつつ、次年度末には成果を論文化すべく鋭意努力している。
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