研究課題
昭和63年度の研究計画にしたがって、仏教図像粉本類のうち61年・62年度の残余分について調査しカード化を行うと同時に、専門技術者に委托して撮影を行った。小画面の粉本についてはマイクロ撮影でスムーズに完了することができたが、大画面粉本については撮影に予想以上の手間と時間を要し、なお約百点の未撮影を生じた。これらも可能な限り早い時期に撮影を完了して、仏教図像粉本の写真資料を完備したいと思っている。ただ一連の仏教図像粉本ではあるが神祇関係の社頭図や道具類が含まれており、別に提出する冊子形態の研究成果報告書の仏画粉本目録から除外した。即ち第1函から第115函あるうち第90函までの目録で、名称・形状・技法・法量・作者・制作年等を記したものである。制作の実際や依頼主などを詳細にしたためた裏書や端書については、興味ある記述であるが、今後研究分担者によって夫々研究報告することを予定している。なお本年度旅費を形上して行う予定であった粉本と深いつながりのある会津地方の仏画調査は、印刷のための原稿化や印刷代に充当するために果せなかった。新たな知見としては長谷寺本尊十一面観音立像の明応造立時の原寸差指図の忠実な写しがあり、11メートルを越える仏画が計画されたことを推定できた。いずれにしても六角堂能満院に仏画道場をもって次々と本格的な仏画を制作し、あるいは版にして公刊するなど江戸末期の密教僧大願を中心にした高いレベルの画僧たちの画業は鎌倉仏画以来のものとして高く評価されるべきことが調査の図像粉本によって明らかになった。それらは確認されている石山寺・湖北高閣所蔵の仏画や御室版高雄曼茶羅によって裏づけられる。今後発見される本画によって彼等が制作した江戸末期の仏画が、他の職業的画師の制作したものと大きなしらきをもったすぐれたものであることを研究成果として報告したいと思っている。
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