研究概要 |
1.先天性白内障(右眼視力ゼロ,左眼0.02)の手術を1986年12月11日に受けた(当時38歳)開眼者Y.Y.の協力を得て、白色背景光(10°,1000+d)上に提示する検査光(2°)の分光感度を術前および術後数回にわたって測定した。その結果、短波長域,中波長域および長波長域にそれぞれλmaxをもつ分光感度曲線が、Y.Y.の場合すでに術前の資料にも現われていることを見出した。ただし術前の曲線は術後のものに比べて、短波長域のピークが極度に低く、水晶体混渇の影響が顕著に現われている。対照群として同一条件下の分光感度を3名の正常3色型晴眼成人および6名の正常3色型晴眼児(9-10歳)と、2名の2色型第1異常および1名の2色型第2異常の晴眼成人とについて測定し、Y.Yが術前からすでに正常3色型の晴眼者(児)と同じく、3種の錐体系を具えていたことを実証することができた。 2.もう一人の先天性白内障の開眼者K.T.との協同実験では、事物および顔の認知においてその色彩属性がいかなる役割を果しているか吟味し、機能発生の初期段階では色彩属性に大きな比重をおいていることが明らかになった。 3.生後早期の斜視を伴う弱視児(HとIの2名)のうち、非定型の色覚異常と診断されたH(右眼視力0.1,左眼0.4,右眼の内斜視)について、日常行動場面では標準色紙の色の識別が可能(色紙の大小にかかわりなく)であることを見出した。また、Hに関しては、当初Stereo Fly Testでは立体視機能の検出不能と診断されていたが、1985年4月以降現在に至る約2年間の機能(視覚)訓練を実施する間に行われた実体鏡による実験の結果をみると、古典的なステレオグラムについては立体視が可能と認められる。PL法による実験結果をみても、30分および20分の視差は検出していることが明らかになり、Fly Testも立体視可能となった。これに対して、RDSのStereopsisはまだ成立していない。
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