研究概要 |
本研究においては, ヒトの幼児で用いられている偏好注視法( preferential looking)をサルに適用し, サルの再認過程の最も基本的な側面をまず現象的に把握し, 次に, それに対応した脳のニューロン活動を解析することにより, 再認過程の生理心理学的基盤を明らかにすることが究極の目標であった. 本年度は昨年度に引きつづき, ビデオカメラによりサルの眼球の位置をモニターし, 数秒前に提示した刺激よりも, 新奇な刺激の方をより長く注視するという偏好注視(preferential looking)がサルにおいても存在することは確認できたが, この実験パラダイムでは1日に行える試行数が限られており, 必ずしも再認記憶の生理心理学的基礎をニューロンレベルで研究するのに適さないことが判明した. したがって, 再認記憶課題の一つである「遅延対刺激比較課題」をサルに訓練し, 訓練完成後, 海馬より単一ニューロンの活動を記録し分析する実験に移行した. この課題では二つの刺激(S1とS2)が継時的に提示され, S1とS2が同じか否かをGO/NO・GO法で反応させる. 現在, 一頭のサルの訓練が完成したところであり, 3月中旬には海馬よりニューロン活動を記録するための手術を行い, 手術の侵襲からの回復後, ニューロン活動の記録を行う実験に入る. 興味の中心は, S1提示後の遅延期間中に, S1として提示された刺激の違いに依存して異った発射パタンを示すニューロンが海馬で見出すことができるかというところにある. また, このような作働記憶に直接関与していると考えられるニューロンの海馬内での分布に関しても, このようなニューロンが海馬の前部に限局しているのか, 後部に限局しているのか, 前部ー後部という区分のみならず, CA1ーCA4のどの領域に多く分布するのかという問題についても検討する予定である.
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