61年度は、ビデオカメラによりサルの眼球の位置をモニターし、数秒前に提示した刺激よりも、新奇な刺激の方をより長く注視するという偏好注視(preferential looking)がサルにおいても存在することは確認できたが、この実験パラダイムでは1日に行える試行数が限られており、必ずしも再認記憶の生理心理学的基礎をニューロンレベルで研究するのに適さないことが判明した。したがって、62年度以降は、再認記憶課題の一つである「遅延対刺激比較課題」とその変型の「空間的位置に関する再認課題」をサルに訓練し、この課題を遂行中のサルの海馬より単一ニューロンの活動を記録する実験を行い以下の如き成果を得た。 (1)少数ではあるが(N=8)、提示された見本刺激の違い(〇か+かという違い)に依存して、遅延期間中に異なった発射活動を示すニューロンが、海馬において見出された。(2)上述の如きニューロンは、空間的な位置に関する遅延比較課題では、遅延期間中には異なった発射パタンを示さなかった。(3)光刺激に応答を示す海馬ニューロンには、試行の開始を告げる光刺激や見本刺激、比較刺激などには応答せず、サルに選択反応を許す時点で提示される光刺激にのみ選択的に応答するニューロンも数個、見出された。(4)空間的な位置に関する遅延比較課題において、刺激提示の位置の違いに依存して異なった活動を示すニューロンが、海馬で多数見出された。(5)空間課題・非空間課題のいずれの場合にも、誤反応後にのみ特異的に発射活動の変化(上昇・低下)するニューロンが、海馬においても見出された。 以上のごとく、ニューロンレベルの研究においても海馬が再認記憶に関与していることを示唆する知見が得られた。
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