研究概要 |
人間の認知機構や精神病者の認知障害を脳波を用いて実証的に突明する方法が近年注目されている. 本研究の全体的な目的は, 記録によって得られた脳波成分である事象関連電位(ERP)の脳内発生起源を明らかにし, その知見から, 各ERP成分が反映するとされている心理学的過程について再検討することである. 昨年度では, 脳内発生起源を解明するための動物モデルを作る目的で, 学習行動中のラットからの(代表的なERP成分であり, 人間の認知活動に関連して出現するERP成分である)P300に相当するERP成分の記録を試みた. その結果, オペラント学習のS^+(強化刺激)に対する波形に複数のERP成分(大脳皮質及び海馬記録)を認めることができた. そこで, 本年度では2種のS^+を用いたオペラント学習を課してERPを記録し, それらの強化刺激に対するERPに, (P300の基本的な性質である)刺激の提示頻度による変化が認められるかどうかを検討した. ラットに, Sa(4000Hz純音)に対して右のレバー, Sb(1500Hz純音)に対して左のレバーを正反応とする弁別学習を与えて, 大脳皮質の前部(Fr)と後部(Oc)の表面電極ならびに, 皮質表層から背側海馬内までの間に深さを違えて垂直方向に並べた4本の深部電極の先端からERPを記録した. その結果, OcではP100, N300, P700, FrではN300, P700が出現した. そして, 刺激の提示確率を変化させると, P100とP700の振幅が, 人間のP300成分同様に, 高頻度刺激よりも低頻度刺激に対して大きくなることが見出された. そこで, この両成分は認知関連ERPのモデルとなる可能性をもつ成分であると推定した. 更に, 両成分の発生源を同定するために, 深部電極からの記録を解析してみると, P100成分の極性が日質部と背側海馬表層との間で逆転していることが判明し, この電位が背側海馬表層で発生している可能性を示すことができた.
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