研究概要 |
1.研究の目的・方法・対象-高度経済成長過程で確立した「大企業体制」下に編入・統合された勤労大衆の生活の「富裕化」と意義の「保守化」傾向を, 企業の管理体制や企業内組合の体質に即してとらえ, 今後の動向を明らかにするため, 茨城県H市H工場の従業員311人つき個人面接法により調査を実施するほか, 各種のデータを収集した. 2.調査結果と若干の知見-(1)職業・職場生活をめぐっては, (a)高学歴・高地位・高収入者ほど仕事での自己実現・能力発揮を重視し, 低学歴・低地位・低収入者ほど手段主義的労働志向が強いこと, (b)中高年・中等または義務教育終了者, 事務および工員に企業への満足度や帰属意識が強いほか, (c)中高年・中学歴の事務および工員に組合活動への積極的参加が目立つこと, (2)くらしむきと階層意識については, (a)低学歴・若年層と高学歴・中高年層にくらしむき評価が高く, 職員層内部では管理・専門と事務との間に落差がみられること, (b)階層帰属意識は中の上3割, 中の下5割と中の下へ傾斜し, 高学歴・高収入層は中の上, 短大・高専卒・事務は中の下, 低学歴・工員は下の上への帰属がいちじるしいこと, (3)政治とのかかわりに関しては, (a)社会党支持が圧倒的に多く(6割), しかも収入と地位が高くなるほどその傾向が強まり, 富裕化は保守化をもたらさないこと, などが判明した. 3.今後の課題-全般的印象としては, 企業や組合への帰属意識ないし忠誠心が強い層は中高年・高校卒・事務および工員であって, この層が労資協調意識のにない手であり中流意識の浸透も受けているが, 専門・管理層は現状肯定的・生活満足的で保守化の傾向が若干みられる. しかし, 生活の富裕化, 中流意識化, 現状満足による生活保守主義への傾向との関連はなお定かではなく, この点の掘り下げた解明は今後の課題として残されている.
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