ガラスからの高分子の結晶化過程を観察するため、ポリプロピレンを融液から急冷することにより、ガラスを作製した。このガラス及び熱処理により結晶化させた試料について、X線小角散乱(SAXS)と電子顕微鏡(EM)を用いて主に調べた。約253Kでガラスから、準安定なスメクチック相に転移し、313Kから単斜晶へ更に転移を始めることが分った。EMによる試料表面の観察から、ガラスでは、2.5nm位下の構造はなく、スメクチック相では約10nmの粒状構造が見られ、これ等の粒状構造は、373K以上の熱処理で大きくなり、413Kでは約20nmに達することが明らかとなった。SAXSは、上記の大きさに対応する長周期の散乱を与えており、粒状構造が、単なる表面構造でなく、内部の構造であることを示している。これらの粒状構造は、非晶ガラスから、スメクチック相、更には単斜晶への一次相転移にともなうドメイン構造である。この構造の時間発展を観察するために、京大に設置された超強力X線装置に全長6mのSAXSカメラをとりつけ、立ち上げを行った。試料冷却機を用いて実験を行った結果、253K近傍での転移速度は、大変速く1分位下であることが判明した。すなわち、小角散乱強度は、温度上昇とともに、増加するが、時間に対しては、測定限界の、1分以降は、変化しない。したがって、ガラスからスメクチック相への転移に伴う、粒状構造発現の時分割測定はできなかった。このように速い転移は通常の高分子鏡の拡散速度からは、予想外であり、ガラス状態で既に秩序状態が存在している可能性がある。このため、真に無秩序なガラスを作製するため、より高温の融液からより低温へ急冷する方法を開発している。また高温(400K位上)での粒状構造の成長は、融解-再結晶の過程であり、充分遅い過程が期待できるので、試料加熱装置を作製してSAXSによる時分割測定を行う予定である。
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