電気抵抗の一部は運動する電荷のフォノン散乱によって発生する。また抵抗値の1/fゆらぎはフォノン散乱によるものと考えられる。従って、フォノン数のゆらぎを直接測定することが出来れば、1/fゆらぎの発生機構について重要な知見を得ることが出来る。これがこの研究の動機である。高純度の水晶単結晶にアルゴンイオンレーザー光を入射すると、入射光の一部は結晶内部のフォノンによって散乱される。従って、ブリルアン散乱光の強度ゆらぎはフォノン数のゆらぎを反映していると考えられる。そこで、ブリルアン散乱光の強度ゆらぎを光子計数法によって測定したが、光子計数法によって得られる光子数の時系列は統計的なバラツキが大きくて、散乱光の強度ゆらぎを表すパワースペクトルは統計的なバラツキによって生じるショット・ノイズに埋もれてしまって推定が困難になることが分かった。つまり、強度ゆらぎを伴う入射光の光子計数によって得られる数値列は、複合ポアッソン系列になる。 このショット・ノイズの中に埋もれた強度ゆらぎのパワースペクトルをどのような数学的な手段で推定するかを研究し、適切な方法を見い出すことが出来た。これが第一の成果である。この成果は情報理論研究会で発表した。また、3月の物理学会で発表する予定であり、英文の論文として発表を準備中である。実験的にはもう一つの困難に直面した。入射するレーザー光の強度ゆらぎを十分に安定化することが出来ない。そこで、このゆらぎを信号処理によってどこまで除去できるか工夫した。計算機シミュレーションによってその妥当性を確認した。これが第二の成果である。この成果は測定結果の解析を含めて昭和62年度に発表する予定である。
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