baddeleyiteはZr【O_2】を主成分とする鉱物で、強度・靭性等に優れる工業材料ジルコニアとして広い用途をもつ。これらの性質は物質固有の多形関係に依る処が多く、加熱により単斜-正方-立方の対称をもつ相に変化し、また加圧によっては単斜-斜方(【I】)-斜方(【II】)へと移る過程の応力緩和が重要な役割を果す。これら多形のうち天然では単斜晶相のみが記載されている。本研究では斜方晶【I】相の安定性と結晶構造の解析に重点をおき、本年度はまず、この相を室温1気圧の条件への凍結実験を試行した。その結果、100nm以下の微粒粉末に若干の水を加え、400℃・6GPa程度の処理をおこなうと、ほぼ完全に目的物を凍結しうることを見出した。この相の同定のため、X線粉末回折のほか、電顕による格子像の観察及びそのオプティカルトランスフォームの解析を実施した。生成物がほぼ単一相であることが確認されたので、この試料を用いて、15°<2θ<110°の範囲でステップスキャンによる粉末X線回折の強度データーを収集し、これを利用してリートベルド法による構造の精密化をおこなった。得られた結果は、単結晶の加圧その場観察から求められたデーターと良い整合性を示した。これより凍結された斜方晶I相の原子配置が明確にとらえられた。この解析に使用した格子定数に、加圧その場観察から得られた結果を加味してこの相の圧縮率を算出した。圧縮率は単斜晶相と比較して小さく、高圧相としての一般的傾向に矛盾しないことが判明した。一度生成した斜方晶【I】相は空気中の加熱のほか、乳鉢等による摩擦でも容易に単斜晶相に変換することから、この両者はマルテンサイト的相転移により関係づけられることが理解され、斜方晶相凍結の困難さもこれにより説明された。
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