毛筆漢字の美しさに関する評価エキスパートシステムの構築を通じて、芸術分野における知識獲得手法確立への一つのアプローチを行った。 知識源としては、書道書、書、書道家が存在する。また書道における知識は、明文化されているものでも抽象的かつ定性的に記述されており、そのまゝでは計算機になじみにくい。本研究は、まず階層分解合成法を提案し、この手法により、計算機による美しい毛筆文字生成と、書道家にもわかり易く制御し易いパラメータによって毛筆文字を自由に変化させうる環境を実現したことに始まる。 本年度は、書道書から収集された94法の知識を分類し、そのうち三水法など28法を計算機にプロダクションルールの形式で蓄積した。残された知識のうち43法は適用条件が明確なのでルール化し易く、23法は適用条件不明確のためルール表現には工夫がいると予想される。 また書のサンプルにより直接導くルールとして、本年度は文字の主観的大きさをとりあげた。文字相互の大きさのバランスをとるためには、文字形状が文字の勢力範囲に与える影響を考慮して補正した文字の広がり量と、複雑度を組み合わせた、文字の大きさの正規化手法が有効であることを実験により確認した。これにより文字の感覚的大きさと物理量との定量的相互関係が得られ、新しいルールが見い出されたことになる。 科学研究費で購入したワークステーション上に、書道家にも使い易い計算機環境がほゞ整ったので、次年度は、このインタフェースを更に充実させると共に、書道家に実際にこのシステムを利用して頂き、書道家の書作成過程から直接に知識を得る実験を実施する予定である。まだルール化されていない書道書知識の表現と蓄積、および部分パターン間のバランスの定量化実験も、あわせて推進する予定である。
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