研究概要 |
昭和62年度の研究は,前年度の結論を基として,巾30cm,長さ12mの鋼製直線水路の河床に巾10cm,深さ5cmの停滞水域を設け,主流域と停滞域の間の溶存質交換を二次元的に観測する実験を第一課題として行ったが, 停滞域内の乱流強度が高すぎて所期の目的を達し得なかった. 第二課題として巾1.8m,長さ20mの新設開水路に直線複断面を造成したが,等流抵抗則を調べる段階で測定機器の不足,断面の縱方向の非等性等の問題の処理に追われ,抵抗則についての知見は得られたものの拡散の実験には至らなかった. 第三課題の実河川見測は適当な使用染料がなく断念し,又現存する拡散データは採用に値する精度のものが得られなかった. 従って昭和62年度の成果は,第四課題である流管モデルの再検討を北米及び欧州の最近の知見に基いて行った研究が発表に値し,この結果より土木学会論文集その他に投稿予定の二論文を完成した. これらの主要な結論を列記すと次の通りである. 1, 流管モデルは既に検証された通り自然河川の二次元定常濃度分布の記述を十分になし得るが,非定常濃度分布の記述にも最も適したモデルである. 2, 不等流での横分散係数の予測はテーラーの分散理論を更に拡張したアプローチ,例えば固有関数を用いる摂動解法等が望ましい. 3, 実測によれば,アマゾン河やマッケンジー河のような巨大河川の河道平均横分散係数は,中小河川や実験水路の夫と余り変らない無次元定数で与えられ,いわゆるスケールの影響は認められない. 4, 本邦河川のように直線を多用する人工河道では,主流域と停滞域夫々に流管モデルを設定して二方程式モデルを解く必要がある. 5, 非保存性溶質濃度は,一次減衰を仮定すれば, 保存性溶質濃度の補正として二次元的に記述可能である. 尚本研究の実験部分は,補助金総額の80%を費した機器設備が整ったので,昭和63年度次降継続予定である.
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