この研究は、発掘調査による考古学上の成果にもとずいて、建築学上の立場から、古代から近世にかけての住居建築の変遷を明らかにする目的ではじめた。縄文時代から平安時代にかけての住居資料の収集と、それにもとずく古代住居史の研究は、科学研究費の補助を受けて過去5年間に相当の成果をあげることができ、現在もなお資料収集と研究を続行している。 今回の研究の目的は中世住居の研究が主であるが、これまでの研究の結果では、文化史的には縄文時代前期にほぼ現在みられるような地域性が定着して、各地域間で影響し合い、各地域内で独自の発展がなされており、住居建築においても同様であることが明らかとなった。 しかし、中世においては、地方性も認められるが、例えば、平安時代末期から鎌倉時代にかけて、畿内・東海地方を中心としてかなり広い分布範囲を示す特異な住居が出現し、室町時代には消滅していること、また、東北から北陸にかけての日本海沿岸地方から、中部・関東地方にかけて竪穴式あるいは平地式で草壁構造と推定される住居が中世に盛行して、近世に入り消滅していることなどが、資料収集の過程で明らかになりつつある。 したがって、中世の住居は古代とは全く異なった変化、それもかなり激しい変化をともなうことが予想され、さらに資料収集の徹底化をはかる必要がある。
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