研究概要 |
イオン結晶や半導体中の格子欠陥の電子状態は、光学的測定やEPRが使えるために、かなり良く理解されているが、金属中の格子欠陥の電子構造は未だそれ程明らかではない。一方、陽電子消滅2次元角相関法の最近の発展は、金属合金中の格子欠陥近傍の電子運動量分布および電子波動関数の異方性の直接的測定を可能にしつつある。昭和61年度は、2次元角相関装置の拡充および格子欠陥研究のための基礎となる解析法の整備、単結晶試料の作成を目的とした。研究成果として、(1)現有の2次元角相関測定装置を拡充し、BGOシンチレータ、超小型光電子増倍管の増設により、256BGO検出器のシステムとし、2.5倍の計数率向上を実現できた。また、40K迄の低温測定が可能となった。(2)単結晶試料の2次元電子運動量分布の様々な方位での測定結果から、3次元の電子運動量分布を再構成する方法を開発した。この方法は、測定データのフーリエ変換を直接利用するもので、非常に再現性の良い方法であることを実証できた。(3)アルミニウム、銅中の刃状転位周囲の電子運動量分布の測定を行ない、完全結晶のそれと比較し、アルミニウムのフェルミ面のモンスターおよび銅の〈111〉ネックの消失を確認した。(4)鉛および鉛希薄合金、NiAl規則合金の単結晶試料を作成し、十分に焼鈍した状態での電子運動量分布を測定し、3次元の電子運動量分布を決定し、LCW解析によりフェルミ面を決定した。62年度に実施予定の鉛の熱平衡原子空孔,鉛希薄合金の原子励起子,急冷したNiAl中の複空孔,単一原子空孔近傍の電子運動量分布の測定に対して、対比すべき完全結晶のデータを準備することができた。(5)理論面では、ポジトロニウムの運動量分布と表面の電子運動量分布との間に、極めて密接な関係があることを確認し、ポジトロニウムの速度分布および角度分布の測定から表面電子の運動量分布を得ることができることを示した。
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