本研究は鋼の破壊靭性の確率分布が破壊の微視的機構と密接な関係があると思われることから、先ず微視的破壊条件の確率的性質を明らかにした上でその破壊条件と破壊靭性との関係を定量的に調べ、微視的尺度における破壊過程の確率的要因が破壊靭性のばらつきにどのように反映されているかを明らかにしようとするものである。 61年度においては脆性へき開破壊は局所最大引張り応力に支配されるとの立場から、平滑丸棒および切欠付丸棒試験片を用いてへき開破壊応力の確率分布を調べ、切欠の影響について確率論的に検討を加えた。また同時に多数の破壊靭性試験を行ない、破壊靭性の確率分布と破壊条件との関連についても検討した。これまでのところフェライトパーライト組織を有する軟鋼SM41Bについての実験、解析が終了し次のような結論を得ている。 1)へき開破壊応力の確率分布はWeibull分布に従う。2)へき開破壊応力に及ぼす切欠効果は最弱リンク概念とFEM解析により確率論的に極めて良く説明できる。3)破壊靭性のばらつきは、へき開破壊応力のばらつきと直接関係はなく、材料に依存しない一定の確率的性質を有することが予測される。 現在、上記の結論の妥当性を確認するためベイナイト組織を有するCr-Mo【V】鋼について同様の実験を行なっている。62年度はさらに冶金的因子(結晶粒径など)がへき開破壊応力の確率的性質に及ぼす影響を調べるとともに、種々の組織、粒径を有する鋼について力学的破壊条件と破壊靭性との関連を調べる。
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