研究概要 |
核酸分子は均一の硬い2重らせん構造ではなく, ある塩基配列は特有の高次構造特性を持つ. 遺伝情報の発現調節には, 蛋白質分子によるこの高次構造の認識様式が重要である. 報告者らはX線構造解析, CD, NMR測定, 更に分子動力学計算を行をるプログラムの導入し理論的解明を行った. 1 折れ曲り構造をとる可能性のあるアデニン連続を持つd(CGCAAAAAAGCG):d(CGCTTTTTTGCG)の結晶化に成功し, X線構造解析を行ったが, 溶液で観測される大きな折れ曲り構造は見られなかった. 2 プロトンNMR測定よりこのDNA分子のある部分は通常のB型構造でないことが判明した. 核オーバーハウザー効果よりプロント間距離を求め, これを拘束条件とした分子力場計算, 分子動力学計算を行った. その結果, アデニン連続部分では折れ曲りは見られず, この部分と非アデニン連続部分との間で, 5側では35度小溝が開き, 3側では19度大溝が開いている妥当な折れ曲り機構モデルが得られた. 3 シス白金の付加によるDNA高次構造の変化をプロントNMR測定で検討した. シス白金は優先的に2つの連続したG(グアニン)に配位し, 塩基対水素結合は保存されているが, 塩基の重なり構造はゆがんだ不安定なものとなっている. 分子はシス白金付加部分で小溝大きく開いたKINK構造であり, この構造と蛋白質の結合認識様式が異なったものになることが, この制がん剤の生物活性発現機構の1つと考えられる. 4 ヒポキサンチンとアデニンのミスマッチ塩基対(I-A)を含むDNAオリゴマーの分子動力学計算を行った. このI-Aが2重らせん構造に組込まれる様式には2つあるが, 両者は同程度の安定性を持っており, 両者間の遷移は見られなかったが, I-A塩基対近辺の小溝側で塩基対の重なりが開くことが認められ, 水素結合対の組替えが起こる可能性が明かになった.
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