これまでの研究の積重ねから、コレステロール胆石の形成に関して、以下の仮説をたてた。(1)胆汁中で核形成後、一水化コレステロールの微細薄板状単結晶が多数成長する。(2)凝集中心によってこれらの単結晶が放射状に捕捉され、(001)面の対応格子ないし双晶方位の結合を中心とした連結が生じる。(3)この凝集体は常時回転し、板状晶の放射状の集合を促す。同時に弱く結合した結晶を外ずし、強く結合した結晶を残す。(4)凝集した結晶間の隙間は(001)面上の二次元核成長ないしは、らせん転位を媒介とした渦巻成長によって厚化し、互の結合が強化され、固い球状晶となる。 この仮設を検証する第一歩として、モデル胆汁をつくり、鏡下でその場観察を行った。モデル胆汁の調整がこの研究の一つの鍵である。調整は次のようにして、ヒト胆汁の条件に類似のものとした。(1)pH7.5のリン酸バッファーを作る。(2)T・CDCA(ケノデオキシコール酸タウリン抱合体)ナトリウム塩を100mM、レシチン40mMを加え合せ、これにコレステロールを過剰に加えて37℃で1週間溶解する。(3)0.45μmのフィルター瀘過で飽和モデル胆汁とする。 これを用いて、透過位相差顕微鏡にてその場観察を行った。成長の駆動力は37℃と成長時の温度(25℃に設定)の溶解度差である。スライドグラスに封入した実験では5〜6時間で10μm程度の板状晶となる。成長初期には弯曲したり、コイル状になった薄板晶も出現する。成長するにつれて平板化する。大半の(001)面は分子レベル(【C_0】=34【A!。】)で平坦である。いくつかの(001)面上で典型的な渦巻成長が見出された。この成長模様の時間変化も記録できた。以上の成長上の特長は、これまでヒト胆汁でその場観察した場合と極めて良く類似している。このことは、本モデル胆汁の調整が成功したことを明らかに示している。以上の結果を定性的に検討することで、目的の第1は達成された。
|