研究概要 |
1.試料汚染の程度とそれを避けるための方法 南極の積雪のブロック試料や氷床の柱状試料は、採取後日本まで輸送し、化学分析に供する間に、種々の試料汚染を受けるので、その程度とそれを避ける方法を確めた。化学分析用の試料の前処理はクラス100のクリーン・ルーム内で行ったが、積雪ブロック試料の切断はよく洗浄したステンレス製の鋸で行うのが実際的であり特別の汚染は認められなかった。しかし氷柱状試料は鋸で薄く切断することは不可能であり、白金で被覆したニクロム線ヒーターにより汚染することなく切断できた。これらの切断法により、試料の外面から内部に向って薄く何重にも切断し、それらを化学分析し、表面からの汚染がどれほど深くまで達しているかを明らかにした。その結果積雪ブロック試料では、【Cl^-】,【NO(^-_3)】,【SO(^(2-)-4)】,N【H(^+_4)】,【Na^+】などの主成分は表面より約2cm,【K^+】,Zn,Cuなどの微量成分は約4cmまで汚染が達していた。また氷の柱状試料では、主成分は深さ約1cm,微量成分は深さ約2cmまで汚染されていた。 2.南極雪氷試料の化学分析 グリーン・ランドの氷床試料からは、過去約100年間に大気汚染が急激に進行したことがうかがえるが、これと対象的に南極の雪氷では同様な汚染が認められていない。南極の雪氷の含む微量成分はいわばバック・グラウンド・エアロゾルに基くものであり、従って直接には南極エアロゾルの源に関する情報を得ることができる。最近のみずほ基地付近の積雪中では、南極エアロゾルの主成分である【SO(^(2-)-4)】とZn,Cuなどが似た垂直分布を示しており、これらの成分の源につき重要な情報を与えることがわかった。また、みずほ基地で得た氷柱状試料中での微量成分濃度は現在のそれと非常に違っており、数百年スケールでの南極の環境変化を示していると期待できる。
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