研究概要 |
励起状態においてのみ相互作用する二つのπ系としてシアノフェナントレンとpーメトキシスチレンをポリメチレンエステル基で連結した二発色団化合物のうち,メチレン鎖2個のエステルでは,フェナントレン部位を光照射すると,分子内励起錯体に由来する発光が観測され,フェナントレン環と二重結合の付加環化に由来するシクロブタン誘導体とカルボニル基と二重結合の付加環化に由来するオキセタン誘導体が生成する. また,同時に,二重結合の異性化も進行する. 先年度は,これらの現象の効率に対する温度と溶媒の効果を検討した. 今年度は,その結果に基づいて,メチレン鎖長の効果を検討するために,二つの発色団を11個のメチレン鎖で連結したエステルの励起状態の挙動について研究した. このエステルの分子内励起錯体からの発光は,メチレン鎖2個のエステルの場合と同様に,溶媒の極性の増大と共に長波長側に移動したが,その量子収率は小さく,励起錯体の生成速度もメチレン鎖2個のエステルの場合より1桁遅いことが判った. 励起錯体の傾向寿命の温度依存性から,励起錯体の生成と消失の活性化パラメータを求めた. 一方,この系の光反応では,オキセタン誘導体は生成せず,シクロブタン誘導体のみが生成した. 以上の結果は,メチレン鎖2個のエステルでは,連結鎖の規制により各々の生成物を与える励起錯体などの複数の立体配座で二つの発色団が相互作用するのに対し,メチレン鎖11個のエステルでは,連結鎖に充分自由度があり,発色団同士は最も安定な立体配座で相互作用することを示す. ベンゾニトリルとpーメトキシスチレンをオキシメチレン鎖で連結した二発色団化合物において,分子内でシアノ基と二重結合の付加環化が進行し,新しい芳香族系が生成することを見出しており,この光反応に寄与する構造因子についても検討するために,新たに同族体を合成し,それらの光化学的性質に関する基礎的なデータを得た.
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