二発色団化合物の励起状態の反応性とそれを制御する因子を解明するために、課題(1)ー(3)について研究した。(1)フェナントレン誘導体の分子内光環化付加反応に於ける励起錯体の構造と反応性:二つの発色団としてフェナントレン誘導体とスチレン誘導体を種々の分子鎖で連結したフェナントレンカルボン酸不飽和エステルの光反応について有機化学的及び物理化学的手法を用いて研究した。これらの化合物は、分子鎖の長さと連結様式に依存して、フェナントレンとスチレンの分子間環化付加物と同様の構造を有する分子内環化付加物であるシクロブタン誘導体(CB)のほかに、カルボニル基と二重結合の付加環化に由来するオキセタン誘導体(OX)を与える場合と、OXのみを与え、CBを与えない場合があることを見出した。これらの反応に関与する複数の励起錯体の挙動を解明するために、励起錯体の消光、励起錯体発光と生成物分布の温度依存性、溶媒依存性などを研究した。また、二発色団を長鎖のメチレン鎖で連結した化合物の調製と光反応を試みた。エステル基がフェナントレン環に結合した形のラクトン誘導体とスチレン誘導体との分子間反応及びべンゾニトリルとスチレン誘導体をオキシメチレン鎖で連結した系のシアノ基が関与する分子内付加反応についても研究した。(2)励起錯体を経由するオキシムエーテルの異性化:ジンアノアントラセンの一重項と2ーアセチルナフタレンオキシムエーテル(OE)の相互作用により生成する励起錯体の挙動を研究した。励起錯体の失活の際に生成するOEの三重項が異性化の中間体であることを明らかにし、異性化の量子収量から三重項生成の効率を推定した。(3)励起錯体または電子移動を経由するオレフィンの異性化:芳香族オレフィンの励起一重項と電子受容体との相互作用に基づくオレフィンの異性化及び電子受容性の増感剤によるスチルベンの異性化の機構を過渡吸収、磁場効果などに基づいて明らかにした。
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