本研究はルミネッセンスを発する種々のタイプの錯体について、磁場下での光励起状態の緩和過程がどのように変化するかを追跡し、錯体内の励起エネルギーの緩和のメカニズムを解析し、錯体の励起状態の挙動の特異性、特に金属イオンの役割について明らかにすることを目的とした。 7ナノ秒のNd:YAGレーザーとモニター用フラッシユランプを同期し、500ナノ秒程度の寿命をもつ錯体の過渡吸収を測定しうるシステムを作製した。1本の炭素鎖で継いだ2つのポルフィリン環の1つに銅イオン、他はメタルフリーよりなるポルフィリン二量体(【H_2】P〜PCu)の銅イオンによる常磁性効果について、ケイ光の量子収量、寿命およびT-T吸収を測定した。【H_2】P〜PCuのケイ光寿命は単量体のメタルフリーP【H_2】に比べ1/4になる。PCuのP【H_2】の混合溶液中ではP【H_2】のケイ光寿命は変化しないので、【H_2】P〜PCuでは項間交差の速度が大きくなり、三重項状態が生成しやすくなっている。【H_2】P〜PCuのT-T吸収の減衰はP【H_2】とPCu部分による遅い成分と速い成分の二成分からなっている。三重項の寿命の遅い成分は混合物の1/800になっており、三重項状態では一重項状態におけるよりも、より大きな相互作用が2つのポリフィリン環に働くことが明らかになった。さらにクロモフォアとしてのポルフィリン濃度を一定にしたT状態の量子収量を求めた。混合物の【^3P】【H_2】の量子収量よりも、【H_2】P〜PCuでの【^3P】【H_2】部分の量子収量が大きいことから、【^3P】Cu部分から【^3P】【H_2】へのネルギー移動がおきていることが明らかになった。これらの結果は【Cu^(2+)】イオンによる磁気的効果が大きく影響していることを示している。しかし、常磁性種による内部磁場の効果が大きいため、これら試料では発光寿命が短くなり、明瞭な外部磁場の効果は現在のところ認められなかった。
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