東日本火山帯の火山フロント付近(子持火山と四阿火山など)と背弧側(地蔵峠安山岩類と両白山地の経ヶ岳と大日岳など)で岩石試料の補備採集を行った。これら新試料と保存試料とから選別した試料に関し、EPMAによって単斜輝石・スピネルなど斑晶の化学組成を測定した結果、次の3点が判明した。(1)火山フロント付近の岩石は、島弧型玄武岩に特徴的な化学組成の斑晶を含有する。(2)上野玄武岩類と西日本新生代アルカリ火山岩類は、共通のマントルプリュームから派生したマグマ根源物に由来する可能性が高い。(3)上野玄武岩類の初生マグマは、西日本新生代アルカリ火山岩類のそれよりも高い溶融度のもとで生じたらしい。 次いで約30個の岩石試料をXRFで分析し、液相濃集元素の含有量に注目してマグマの成因を検討した。火山フロントから乗鞍火山列にかけての岩石の液相濃集元素組成のMORB規格化パターンには、HFSE(特にTa)の負異常が認められる。これに対し上野玄武岩類と両白山地の比較的苦鉄質な岩石では、HFSEの異常は存在するとしてもごく軽微である。故に火山フロント付近の玄武岩質マグマが島弧に特徴的な成因を有するのに対し上野玄武岩類など背弧側のマグマは、現実の島弧上に噴出したにもかかわらずマントルプリューム型の根源物に由来すると考えられる。また既存の全岩カリウム-アルゴン年代データからは、両白山地の火山活動と上野玄武岩類の形成とが時間的に相補関係にあることが読み取れる。すなわち単一のプリューム型マグマ根源物が移動することによって、3Ma頃までは両白山地で火成活動をひき起こし、2Ma頃には現在の乗鞍火山列付近で上野玄武岩類を形成し、1Ma以降は再び両白山地の火山活動をもたらしていると考えられる。このモデルの精密化のためには、全岩年代データの追加が必要である。
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